2015年9月10日、JEPA(日本電子出版協会)主催のセミナー「米国電子出版動向 2015」に参加しました。
今年の5月にニューヨークで開催された「Book Expo America 2015/IDPF Digital Book 2015」のトピックを中心に、デジタルタグボート・辻本英二氏がアメリカの最新出版事情を語る、という内容。
今や世界で10億人、アメリカでは2歳児の92%がゲームに慣れ親しみ、「Nomophobia」(携帯電話がないことに対する恐怖症)が広まりつつある現在、そのような読者ターゲットに対して出版社はどんなコンテンツをどのように届ければいいのか、という問題提起から始まり、
- 現在好調な米国書店の販売手法
- セルフパブリッシングのビジネススキーム
- 王者アマゾンの新サービス予測
- 現在好調な米国出版社(医療・学術系データベース提供型等)
- SEO以上にソーシャルメディアへの対応の重要性(とくにInstagram経由の書籍購入機会増)
- デジタルサービスから紙雑誌創刊への逆流
- 雑誌のサブスクリプションモデルの広まり
などのトピックについて解説がなされました。
その中でもっとも興味深かったのは、いまアメリカの出版社で求められている人材、編集者の担うべき職責が急激に変化しつつある、という話。
辻本氏によれば、これまでアメリカ取材を続けてきた中で、現地で集めた名刺の注目すべき肩書きが、毎年どんどん変化しているとのこと。
- 〜2012年:デジタル担当
(ミッション:電子化、スキル:IT+編集・制作) - 2013年:ビジネス・ディベロップメント
(ミッション:新規事業開発、スキル:IT+法律) - 2014年:コミュニケーション・マネージャー
(ミッション:SNSとEC対策、スキル:IT+ソーシャル) - 2015年 :データ(リサーチ)・サイエンティスト
(ミッション:ビッグデータ解析、グラフ化・可視化、スキル:IT+統計・数学)
要は、比較的コンサバティブな出版業界にあっても、一般企業と同様に「デジタルマーケティング」の世界に自ら足を突っ込まなければ生き延びられない時代が到来しつつあるということでしょうか。
その例として引き合いに出された米国出版社McGraw-Hill Educationの、編集者募集要項で求められているスキルというのがまた強烈でして。
- 他社との戦略的パートナーシップを推進できる編集者
- 事業計画が書け、P/Lが読める編集者
- 少なくとも1〜2年間のM&A経験がある編集者
- 著者との印税を含めた契約締結が行える編集者(1年間に12人)
- 著者&ソフトウェアエンジニアと親密に仕事を進められる編集者
そんな条件を満たすウルトラスーパーなんでもできる編集者、あの広いアメリカをもってしても一体何人ぐらいいるんでしょうか(^^;)
もちろん、アメリカと日本では事情が異なりますので、一概に結び付けて考えるわけにはいかないでしょうが、とはいえ同じような流れが数年後に日本にもやって来るであろうことは予測されます。
上の例のように編集・エンジニアリング・マーケティング・ビジネスすべてをこなせる編集者を確保するのは現実的ではないでしょうから、出版社としてはある程度の分業体制を整えるしかないと思います。
その際に、これまで社に迎え入れたことのない畑違いの人材を、雇用/業務委託の別に関わらずどれだけ確保できるか。そこに出版社の未来がかかっているようにも感じられます。
蛇足ながら、筆者は出版社で10年務めた後、ビジネスコンサルティング会社を経て現職に至るまで、編集・広告・マーケティング・システム開発の世界を垣間見てきましたので、このような課題に対して多少なりともお役に立てるのではないかと思っています。お困りの際はぜひご一報いただければと(宣伝御免^^;)。
(Photo by futureprimitive. Under the licence of Creative Commons CC0)
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